ナノテクノロジーという言葉を新聞やインターネットで見かけた方も多いと思います。ナノテクノロジーは実に様々な分野にわたる技術です。ここではナノテクノロジー全般について記述する訳ではなく、微粒子の直径や量子井戸の厚さ、量子ドットの大きさを、なぜナノメートルスケールにしたいのということをお話ししましょう。 ここで最も有名な半導体であるシリコンの結晶を考えてみましょう。一辺が1cmの直方体の結晶を想像しましょう。その辺の長さを、我々が目で見られるような長さ、1mmにしても0.1mmにしても、結晶の持っている物性(物質としての性質)は変化しません。ところが、どんどん小さくしていって、10nm程度以下の領域に入ってくると長さに応じて物性が大きく変化します。代表的なものは、電子の閉じ込め効果によるエネルギー準位の変化や離散化です。これは電子の量子としての性質を反映したもので、量子サイズ効果と呼ばれています。10nm程度以下のシリコン結晶はシリコン量子ドットと呼ばれ、高効率の太陽電池材料としても世界的に注目されています。シュレディンガー方程式を理解した方なら、簡単な量子サイズ効果の問題を解くことができます。量子サイズ効果はナノ粒子にも量子井戸にも発現します。 さて私たちが手にできる高品質の半導体物質は極めて限られています。ところがそれらを材料とし、サイズをナノにすることによって、元の物質が持っていないような性質を引き出すこともできます。また、量子ドットの大きさや粒子の直径を変化させることによって、性質をコントロールすることができます。もっとも、このように素晴らしいものですが、量子ドットやナノ粒子の形状やサイズを揃えて作成することやそれらを規則正しく並べることは、技術的には容易ではありません。測定すべき試料がきちんとできなければ、実験的な基礎研究も進まないことになります。そこで、様々な手法で良質の量子ドットやナノ粒子を作成する試みがなされている訳です。 |