卒業研究の流れ研究室に配属されて何をするのか、ここでは渡辺研究室を想定して説明します。4年次から卒業論文が始まります。単位の名称は卒業論文となっていますが、論文にまとめて提出するのは最終段階なので、「卒業研究」と呼んだ方がいいと思っています。当研究室では研究の中心は実験です。その内容はいくつかの種類の測定と試料の作成で、具体的には下にある別項目で説明します。週に1回大学院生と一緒に研究室のゼミがあり、1回に1人か2人の当番を決めて、発表を行います。発表の内容は卒業研究に関連することを書物やインターネットで調べたことや、自身で実験した結果などです。卒業研究の実験では、データさえ揃えればいいというものではありません。実験の目標を理解することも大切です。また得られた実験データを分析して、次はどういうふうに試料を作れば良いのか、さらにどのような測定をすれば良いのか等を考えます。そんなことを繰り返し研究を進展させます。データが貯まってくれば、それを整理して考察を加え、研究室の仲間の前で発表します。それが卒論発表にもつながります。余談ですが、大学院に進学して更に研究が進めば、学会で他の大学の人たちの前で発表することもあります。 最終的には、研究の目的、実験結果や考察を卒業論文という形で文書にまとめます。そんなことをしているうちに、実験装置やパソコンの各種アプリケーションにも習熟し、発表のやり方も学ぶことでしょう。その結果身につけたスキルが、皆さんが将来社会で活躍するために役立つことになります。 研究のテーマ当研究室でのテーマをお話しするために、まずは「物性物理学」と「量子構造」という言葉を説明します。「物性」とは物質の性質を意味します。我々がものを作る際には、そのひとつひとつの部品をどのような材料で作るのが適当かということも考えて、その材料となる物質を選びます。その際、物質がどういう性質を持っているかを基準にすることになります。ここでいう物質の性質とは、例えば電気を通すとかどうか、磁石に加工できるか、光を透過するのか反射するのかといったものです。このような性質を、分子・原子レベルまで突き詰めて考えるのが物性物理学です。その中でも、光を利用して物質の性質を調べる分野が光物性です。量子とは物質や電磁場を構成する最小単位のことで、電子や光子は量子の一つです。量子構造と呼ばれるものがあります。その例である半導体量子ドットの模式図を下に示します。この絵で赤い直方体が量子ドットで、その大きさは一辺が1〜10nmくらいです。ここで直方体の材質とそれを取り囲む緑色で描いた材質は別々で、この2種の材質を物質Aと物質Bと呼ぶことにしましょう。なぜこのようなものを作るのでしょうか?元々物質AやBが持っているものでもなく、AとBの混合物が持つものでもない新たな性質を持つからです。さらに、大きさや形状を作り変えることによって、その性質を制御することもできます。その中には、他の物質を捜したとしても単独の物質では持ち得ないような性質が多くあります。これは電子が持つ、粒子のようでありながら波のように振る舞うといった、日常の感覚から言えば不思議な量子としての性質のおかげです。量子ドットの他に量子井戸や量子細線、超格子も量子構造の仲間です。作成技術の発展により多くの量子構造が作られるようになり、一部は電子部品として実用化もされています。 ところが、模式図の量子ドットは分かりやすい理想的な形を描いたもので、実際にこのようなものを作るのは困難です。ではどんな量子ドットなら作ることができるのか、といったことを研究しています。当研究室では実際に量子構造の試料を作成し、それが本当に設計したようにできているのか、そして期待した性質を発現できるのか等を、光を用いた測定で調べています。さらに、それらの試料の光物性を研究しています。 具体的に行うことはそのような測定、試料の作成や実験装置の工夫及びパソコンを用いたデータ解析や計算などです。別に量子力学の難しい理論的研究をやるわけではないので安心して下さい。ただこのように実験とパソコンでのテータ解析が中心ですので、アルバイト等が忙しくてあまり研究室に出て来られない人には不向きです。 量子ドット模式図 |